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講演内容

基調講演

基調講演 1
「オリンピック・パラリンピックの開催は主催地の健康増進をもたらすか? 2012年ロンドンオリンピック・パラリンピックの教訓」
ブライアン・マクロスキー英勲爵士
大規模イベントと地球規模健康危機管理に関するWHO協力センター

 オリンピックやパラリンピックは開催都市にとって大いなる課題を突き付けることになるが、同時に、医療に関する好ましいメッセージを発信する機会ともなる。大会は医療向上のチャンスと捉えることができるが、過去の実例を見ると、特に大会のレガシーという観点を重視した上で、入念な計画と準備をもって臨まない限り、この実現は難しいと言える。大会を成功に導くことは困難な作業であるが、その見返りもまた大きい。

 本プレゼンテーションにおいては、2012年ロンドン大会に向けた開催都市の準備計画、及びレガシーとして引き継がれた恩恵について検証する。

基調講演 2
「リオ2016オリンピック・パラリンピックの経験から一般国民の健康づくりへの影響を学ぶ」
マルシア・カストロ
ハーバード大学T.H. Chan 公衆衛生大学院
国際保健人口学部人口統計学 准教授

 リオデジャネイロ市(ブラジル)は2016年オリンピック・パラリンピックを開催した。医療、インフラ、都市交通および安全面に大規模な対策が取られた。さらに、オリンピック憲章規則2第14項に従い、詳細計画では、オリンピック競技大会の有益な遺産を 開催国と開催都市が引き継ぐよう奨励することに焦点が当てられた(オリンピックのレガシーは通常、スポーツ、社会、環境、都市および経済面の5つに分類され、すべてが直接的、間接的に健康に関係する)。本講演では、健康状態の改善を目的として、大会前、大会中および大会後に展開された取り組みを検討し、教訓を導く(例:運動、交通、若者や成人の健康的な行動)。大会から1年半が経った今、その成功、失敗および逸した機会等を考察する。

基調講演 3
「少子高齢社会におけるオリンピック・パラリンピックを契機に健康になるというレガシー」
尾﨑 治夫
東京都医師会長

 少子高齢社会においてオリンピック・パラリンピックを開催する意義を考え、健康面でのレガシーを検討した。
 2020年の大会に際しては、喫緊の課題として「タバコ対策」、「熱中症対策」、「外国人医療対策」の3点があげられる。大会に向けての対策が健康面でのレガシーとして残ることが期待される。

 一方、少子高齢社会においては、「健康寿命の延伸」が重要な課題であり、その方策として、運動が注目されている。世界的にも「Exercise is medicine」、すなわち「適度な運動こそは健康寿命を伸ばす医療そのものである」という概念が広がりつつある。少子高齢社会においては日常生活の中で運動を習慣化することが大切である。今大会を契機に、国民の間で各個人に適した運動を生活の中で行うことが普及し、運動が習慣化することにより、健康寿命の延伸が図られることが期待される。

 「運動により健康になる」という意識が国民全体に広がり、一体感を獲得する。このことが今大会における最も大切な健康面でのレガシーであり、少子高齢社会において今大会を開催する重要な意義と考える。

セッション: 東京オリンピック・パラリンピックがトップアスリートのためだけではなく、国民の健康増進や健康寿命の延伸にどう役立つか

講演 1
「競技スポーツのエビデンスが示唆する健康増進の今後の取り組み」
中田 研
大阪大学大学院 医学部健康スポーツ科学スポーツ医学 教授

 競技スポーツでは勝利を求めて競い合い、高いパフォーマンス(High Performance; HP)のために外傷・障害・疾病からの復帰(Return-to-Play; RTP)、予防(Injury or illness Prevention; IP)、コンディション調整のヘルスケア(Health Care; HC)が重要となる。医学、工学、栄養学、情報学を合わせて競技力向上のためスポーツ研究イノベーション拠点(SRIP)スポーツ庁事業として大学、競技団体、企業との協働にてスポーツサイバーフィジカルシステム(JS-CPS)構築が進められているが、本プロジェクトは2020東京オリンピック・パラリンピックレガシーとしてスポーツ選手のみならず、人々の健康寿命延伸の新たな方法と期待される。

講演 2
「運動グループへの参加による健康長寿効果」
近藤 克則
千葉大学 予防医学センター社会予防医学 教授

 運動をはじめとする健康行動や健康状態と関連する社会的要因の解明に取り組んできた。10万人超の高齢者が回答したJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study, 日本老年学的評価研究)の到達点を紹介する。

 1)多くの指標で地域間に健康格差が見られ、地域グループへの参加率との間に弱い~中等度(ρ=-0.3~0.6)の負の相関を示した。4年間の縦断研究によって、 2)8種類の地域グループ中、運動グループの介護予防効果が最も大きく、 3)週1回以上運動している者のうち、運動グループ参加群に比べ、非参加群で要介護リスクが1.29倍高かった。 4)グループ参加による上乗せ効果の機序として心理社会的な経路、 5)運動グループへの参加率が高い地域では男性のうつが少ないと言う波及効果、 6)公園などの地域環境が運動実施頻度などを高める可能性などが示唆されている。

 個人にのみ着目した研究だけでなく、グループ活動による効果、オリンピック・パラリンピック開催などの社会環境が運動行動に及ぼしうる影響などが新しい研究課題になりうると思われる。

講演 3
「小児に対するオリンピック・パラリンピックのレガシーとしての意義」
岡田 知雄
神奈川工科大学 応用バイオ科学部栄養生命科学科 教授

 わが国における1964年の東京オリンピック、そして2020年のオリンピック・パラリンピック開催という2回の栄誉を経験できるという幸運をわれわれは、わが国のそして世界の未来を担う子どもたちの健やかな成長のために有形、無形のレガシーとして活かす視点が極めて重要である。わが国の子どもたちの成育環境において抱える諸問題は、近代産業国家における共通の課題でもあり、幼児期から豊かで身近な自然やのびのびと遊べる環境を犠牲にしてきた今日、ICTの高度の普及発達により、生活は便利になる反面、益々子どもの実体験は削がれ、人類として子どもの心身の成長の危機が指摘されてきた。これはまた、発達障害の蔓延や母子を中心とした心の問題、育児の基本的な形態にも大きく影を投げかけている。また、障害を持った子どもたちが生きがいを持って社会に同等に参加しうる仕組みと知恵のためにも、成育環境の劣化に関して、今回のオリンピック・パラリンピックの開催を機会に、子どもの豊かな成育環境への転換をはかることにより、健やかな成長に貢献することこそ第一義的に実行すべきときであると確信する。

講演 4
「運動と健康-生涯スポーツ論と性差の観点から」
工藤 保子
大東文化大学スポーツ・健康科学部スポーツ科学科 准教授

 生涯スポーツの視点で、わが国の運動・スポーツの現状をご報告する前提として、スポーツには「する・みる・ささえる」の3つの関わり方があることを述べたい。特に、2020年東京オリンピック・パラリンピックでは「する」立場、いわゆる選手として参画できる者は極わずかである。多くの国民は、観戦・応援をする「みる」として関わる。また、事前準備をし、志がある者は「ささえる」、いわゆるボランティアとして参画する。

 ところが、実際の現状をみると、それらの実施率は「する>みる>ささえる」となり、性別でみると「男性>女性」の構図となる。成人男女の運動・スポーツ実施率の男女差は、調査開始の1965年から変わらず続いており、また、女児・男児を対象にした全国調査では、9歳前後が男女の実施率が逆転するターニングポイントであることも確認できている。

 実施希望率の調査結果を踏まえ、東京オリンピック・パラリンピック後の国民の生涯スポーツの状況を予測したい。

講演 5
「運動は医療である-運動が健康にもたらす良い効果-」
山内 潤一郎
首都大学東京大学院 人間健康科学研究科 准教授

 現代生活では、人間の動く手間が省かれ、大変便利になり、身体を使って動かす機会が劇的に減っています。この運動不足と飽食が現代人の肥満や体力低下を引き起こしています。また、高齢者の介護問題と平行して高齢者の自立性についても重要な課題とされています。ヒトを含む動物は生き抜くために必然的に運動することが要求されています。運動することで、自然と強い骨や筋、そして病気から守る免疫力のある強い身体を作っています。現代社会では、普段から意識的に運動をすることを心がけ、健康的な身体をつくることが必要です。習慣的な運動と強い肉体はポジティブなメンタル思考を持つことが出来るといわれています。ヒトが本来必要としている身体の活動の重要性を認識し取り戻し始めたならば、身体と精神が相互作用しその人の生命環境を好循環させてくれるはずです。今回は、これまでの研究成果を基に、日常生活の活動に必要な体力とその向上のためのヒントについてお話をさせていただきます。身体の仕組みや動きを考慮し、日常生活をより快適に過ごすために必要な実生活上の身体パフォーマンスと関連が深い動作とその筋の出力特性について考えてみます。