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講演内容

基調講演

基調講演 1
「武見国際保健プログラムの歴史、現状と発展」


マイケル・ライシュ
ハーバード大学T.H. Chan 公衆衛生大学院武見国際保健プログラム
主任教授 国際保健政策教授


ジェシー・バンプ
ハーバード大学T.H. Chan 公衆衛生大学院武見国際保健プログラム
事務局長 (武見フェロー)


エミリー・コールズ
ハーバード大学T.H. Chan 公衆衛生大学院武見国際保健プログラム
プログラムコーディネーター

 武見国際保健プログラムは、1983年の設立以来、35年間で、大胆かつ革新的な構想であったものから、この種のプログラムとしては最も古くかつ最大のプログラムに成長した。世界54カ国から271人を超えるフェローを擁し、本プログラムは、健康の不平等への取組みや、医療サービスの質と効率性の改善、そして、多くの低中所得国及びその国民が直面する中核となるプライマリ・ヘルスにおける諸問題の分析を補助し、研究活動を支援してきた。本講演では、武見プログラムのマイケル・ライシュ主任教授が、本プログラムの長年にわたる成長と進化の軌跡を振り返りながら、その歴史について論じる。エミリー・コールズ プログラム・コーディネーターは、本プログラムが世界的な認知度を高め、活動を広げていくために現在どのように運用されているかを説明する。最後に、ジェシー・バンプ事務局長は、これからの十余年にわたる武見プログラムの将来ビジョンを提示する。

基調講演 2
「武見プログラムを泉源とする政策提言」
武見 敬三
参議院議員(武見フェロー)

 武見プログラム(正式名称:ハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院武見国際保健プログラム)は、ハーバード大学公衆衛生大学院に設立された研究・高度研修プログラムであり、これまでに日本人フェロー含む260名を越える修了者を輩出している。創設以来35年が過ぎようとする現在、フォローの活躍の場は、母国の政官学界で国際的視野をもって活躍するのみならず、国際機関などで国際保健の第一線で活躍するものも多くなっている。

 今、国際的開発論の主要テーマは持続可能な発展であり、自国の政策を国際的視野で、かつ、みずから考え進めてゆくことが従前にもまして求められている。また、経済成長を超えるスピードでの高価値医療の進歩など医療資源の再配分といった創設者武見太郎の残した課題への継続的な研究も課題である。そして、課題解決には、すぐれた政策人材が不可欠であり武見プログラムの意義がますます高まっていることを強調したい。

 今回の講演では、地球規模の新たな課題へ挑戦する上で、武見プログラムがどのような貢献が出来るのか、また、その成果を拡散するためには、どのようなネットワークを構築してゆくかについて論ずる。

セッション: 地球規模課題に挑む武見フェローの活躍と今後の展望―少子高齢社会における健康格差是正の成功事例

講演 1
「日本の少子高齢社会における健康格差の課題と是正の取り組み」
近藤 尚己
東京大学大学院 医学系研究科公共健康医学専攻
保健社会行動学分野 准教授 (武見フェロー)

 日本では近年、高齢者と小児貧困が顕著である。小児では相対的貧困率が約50%と、OECD 加盟国でも最大である。我々の分析では、高齢者の所得による死亡および要介護のリスクの格差はおよそ二倍であり、低所得者・低学歴者ほど社会的不活発で抑うつ傾向が高いなどの結果が得られている。小児では、2008年の世界金融危機後、貧困世帯や一人親世帯の子どもが有意に過体重となりやすいことが縦断研究により示された。こういった健康格差の対策には、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジなど社会保障の再設計が不可欠である。しかし、再分配された資源を社会的なストレスのために喫煙やギャンブルなど健康に寄与しない行動に消費することを避けねばならない。そこで、健康意識が低くても自然と健康的な行動が可能となるような環境デザインや行動科学戦略も求められる。我々は国内の自治体と連携して、互いのニーズや状況を共有し合い、そのことで、行動経済学的なアイデアを基にした地域での食行動改善介入や健診サービス支援の介入法を考案した。また、地域行政と市民、研究者が有機的に連携させるガバナンス体制構築の効果を検証した。これらが健康格差縮小に貢献し得ることを見出した。少子高齢社会を迎え、常識に縛られない新しい発想の地域介入を、多様な連携によるチームにより構築していくことが不可欠となっている。

講演 2
「韓国の産科医療が行き届いていない地域に対する助成金制度の有効性」
ジューワン・オウ
ソウル国立大学医学部・国際保健政策・管理学部教授 (武見フェロー)

- 背景-
韓国では出産率が減少しており、それに応じて出産施設数も減ってきている。出産施設が存在しない地域が増加すれば、そこに住む妊産婦にとっては健康上の脅威となりかねない。そこで韓国政府は、30% 以上の妊産婦が60分以内にアクセスできる出産施設が全く存在しない地域に対して助成金を支給し、出産施設を新たに設立する取り組みを始めた。そして2011年から現在に至るまでに、14の地域がこの恩恵を受けている。

- 検証方法-
この助成金制度の有効性について、別の都市へ出向かない、居住地域における分娩と産前ケアサービスの利用率をアクセス向上指標として検証した。加えて、産前ケアサービスの利用率と妊産婦死亡率を、妊産婦医療サービスの品質指標とした。2015年版国民健康保険データベースに基づいて、サービス利用に関する地域差及び個人差に基づく要因について調整を行った上で、マルチレベルのロジスティック回帰分析を行い、助成を受けた地域と受けていない地域との間で、妊産婦ケアサービスの利用状況とその効果を比較した。

- 結果-
個人及び地域環境の違いによる共変数についての調整後、助成を受けた地域に住んでいる妊産婦は、受けていない地域の妊産婦に比べて、分娩もしくは産前ケアサービスを居住地域で受ける割合が高いことが示された。また、助成を受けた地域においては、産前ケアサービス受診の回数が増え、妊産婦死亡率も低くなっていた。

- 結論-
助成を受けた地域はもともと出産環境が整っていなかったところである。それにもかかわらず、助成を受けていない地域に比べて、助成を受けた後、妊産婦ケアサービスの利用とその効果において好ましい結果が得られた。産科医療が行き届いていない地域で妊産婦ケアサービスへのアクセスを向上させる上で、この助成金制度は効果的である。

講演 3
「台湾の遠隔地農村部における高齢者と若年者へのケア:少子高齢社会の課題」

ソロモン・チェン
恒春キリスト教病院 院長
(武見フェロー)

ロー・ティン・リン
中国医薬大学公衆衛生学院 労働安全衛生学部 助教授
(武見フェロー)

 台湾では1993年から高齢化が進行し、2018年には高齢社会に突入している。一方で人口減少も顕著であり、2017年の出生率は1.13と、世界第3位の低い値を記録した。従って、今後は医療ケアのニーズの高まりと人材不足が想定される。この問題に対処すべく、台湾政府は、2007~2015年の間に実施されていた「長期介護1.0(LTC 1.0)」をふまえ、長期介護の項目とサービス受給者の対象を拡大した「長期介護2.0(LTC 2.0)」を2016年に導入した。しかしながら、現時点で医療に割り当てられている資源は、財政面においても人材面においてもニーズに比べてはるかに少ない。この需給ギャップは遠隔地において甚だしく、遠隔地の人々は社会経済的に不利益を被っている。本プレゼンテーションにおいては、上記の課題について述べ、台湾最南端の恒春半島にあるキリスト教病院での経験を基に、我々が実際に行った対策について紹介する。この活動には、病床数45の病院一か所とデイケア・センター二ヶ所の運営、150名の独居老人への食糧提供、恵まれない家庭の子供300人に食事を提供するための12回にわたる活動支援、家庭内暴力や性的虐待に苦しむ弱い立場の女性への医療サービス提供などが含まれる。

講演 4
「自殺対策:働きざかりの自殺」
崎坂 香屋子
国立精神・神経医療研究センター、自殺総合対策推進センター
(武見フェロー)

 我国は1998年以降自殺者が急増し14年連続で年間自殺者数が3万人を超えていた(最多は2003年の34,427人)。その後は徐々に減少に転じ、2016年には21,897人となった。1998年から2009年までの急増期には「経済・生活問題」を背景とする男性45-54歳群、55-64歳群が自殺の多数を占めた。2006年の自殺対策基本法制定後、消費者金融の規制強化、多重債務の統合、相談窓口の設置を含む自殺緊急対策プラン、が自殺者数の減少に効果があったと考えられている。2016年には自殺対策基本法が改定され、地域自殺対策の取り組みを強化する施策や恒常的に予算も確保されることになった。の交付金化が盛り込まれた。その結果、我が国は10年間で自殺者数を23%減少させた。しかし先進7か国で15-39歳の層の死因の第1位が自殺なのは日本だけである。過労自殺や20歳未満の自殺対策強化が求められている。

 1997年の自殺率を1.0とすると他年齢層は減少しているが10代の自殺率は突出している(2015年=1.5)。生徒児童に周囲の3人の信頼できる大人に助けを求めよ、とする「SOS の出し方教育」の取り組みも開始しているが順調とは言えない。自殺や事件に繋がるSNSの監視も急務であるが地域 ベースの取組、民間を含めた自殺対策の人材増加が重要である。